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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)3009号 判決

原告

英山守男

被告

日伸産業株式会社

ほか一名

主文

一  被告加持哲広は原告に対し、金一一八万五、一七四円およびこれに対する昭和五二年二月一九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告加持哲広に対するその余の請求および被告日伸産業株式会社に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告と被告加持哲広との間においては、原告に生じた費用の三分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告日伸産業株式会社との間においては、全部原告の負担とする。

四  本判決主文第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告に対し、金三五五万四、八六九円およびこれに対する昭和五二年二月一九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四九年一二月二八日午後三時一五分頃

2  場所 大阪市住ノ江区北加賀屋四丁目一ノ六路上

3  加害車 軽四輪乗用車(八神戸そ二〇七〇号)

右運転者 訴外和田伊千松(以下単に「和田」という。)

4  被害者 原告

5  態様 道路を横断するため車道端に佇立していた原告に加害車が運転を誤り、突入して原告を跳ねとばしたうえ、加害車は駐車車両に衝突したもの。

二  責任原因

(被告会社)

1 被告会社は加害車を岩谷産業株式会社住吉工場内にある被告会社の住吉営業所において、会社の書類の送付等のために使用し、かつ和田は無免許であつたが、被告会社は同人が右工場の構内等で何度も自由に運転するのを許容し、本件事故当日も同人は飲酒していたのに、右運転を許した。

2 和田は被告会社の従業員であるが、その上司の訴外石津二雄(以下、単に「石津」という。)を駅まで送るため、加害車を運転し、その帰途、無免許、飲酒運転および道路右側突入の過失により本件事故を起こしたものであり、当日は「御用納め」の日で、御用納めの行事は会社の業務であり、この直後に上司を送つた和田の加害車の運転行為も業務に附随するものである。そうでなくとも少くとも本件事故当時、加害車は被告会社の運行支配内にあつたものである。

従つて、被告会社は自賠法三条および民法七一五条による責任を負う。

(被告加持)

被告加持は加害車を訴外西数男より譲り受け、或いは借り受けて、通勤に使用していたものであり、本件事故時、和田は被告加持に無断で加害車を運転していたものであるが、被告加持は加害車を常時、そのドアに鍵をかけることなく、キーを差し込んだままにして被告会社の右営業所のある岩谷産業株式会社住吉工場の空地に駐車させていた。

よつて、被告加持は自賠法三条による責任を負う。

三  損害

1  受傷の内容、治療経過等

(一) 右腓骨々折、右脛腓靱帯断裂、右下腿打撲兼挫創、頭部打撲

(二) 昭和四九年一二月二八日から昭和五〇年一月二二日迄南大阪病院、昭和五〇年一月三〇日から同年三月一日迄富永脳神経外科病院に、各入院

昭和五〇年一月一四日から同月二九日迄および同年三月二日から現在迄富永脳神経外科病院に通院

2  損害項目

(一) 入院雑費 一万五、五〇〇円

一日五〇〇円の割合による三一日分

(二) 通院交通費 九万六、二〇〇円

地下鉄を利用し北加賀屋駅より大国町まで往復二〇〇円の割合による四八一日分

(三) 休業損害 五八七万三、八三二円

原告は事故当時、株式会社西原工業所に勤務し、一か月平均二四万四、七四三円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五〇年一月一日から昭和五一年一二月末日迄の二四ケ月間休業を余儀なくされ、その間五八七万三、八三二円の収入を失つた。

(四) 慰藉料 一〇〇万円

原告は現在も通院治療中であり、目まい、吐気の他頑固な頭痛、右下肢の骨折部の痛みに苦しみ、休業しているから妻と子供三人をかかえ、生活に困窮している。

(五) 弁護士費用 三五万円

着手金、報酬各一七万五、〇〇〇円とした。

(一)ないし(五)の合計七三三万五、五三二円

四  損害の填補

1  強制保険から 四八万四、六五〇円

2  和田伊千松から 六〇万円

3  労災保険から 二六九万六、〇一三円

を各受領し、その合計は三七八万〇、六六三円となる。

五  本訴請求

よつて、請求の趣旨記載のとおりの金員およびこれに対する弁論終結の翌日である昭和五二年二月一九日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

なお、未だ後遺症が確定しない状況にあり、後遺症関係の損害(後遺症に基づく逸失利益、慰藉料)は判明しないので、本件訴訟は右の損害を含まないものである。

第三請求原因に対する認否

一  請求原因一の1ないし4の事実は認め、5の事実は不知である。

二  同二の被告会社についての事実中、和田が被告会社の従業員であつた事実のみ認め、その余は否認する。

被告加持についての事実中、加害車は訴外西数男の所有であり、同被告が加害車を右訴外人より加害車を借り受けた兄の幸男より時々転借をうけて、通勤に使用していたこと、和田は同被告に無断で運転したものであることならびに加害車を被告会社の営業所構内に駐車させていたことは認めるが、その余は否認する。

三  同三の事実は不知である。

四  同四の1、2の事実は認め、3については、争う。

第四被告らの主張

一  責任原因について

1  被告会社

(一) 本件加害車は被告会社の従業員被告加持が事故の一ケ月前位から自己の都合で週二、三回会社に乗つてきたもので、被告会社は工業用ガスのボンベの充填を業とし、ボンベの運搬作業は全てマルエス工運に請負わせており、営業上、車の使用を必要とせず、加害車も被告会社の業務のため、使用したことがないものである。

従つて、被告会社は加害車に対し、運行支配も、利益も有していない。

(二) 本件事故当日は正午で被告会社の業務は終了しており、その三時間後に起きた和田の運転行為は被告会社の業務と全く関係ないものである。

2  被告加持

被告加持は加害車を被告会社の営業所から良く見える住吉工場構内の空地に駐車させ、常日頃よりその管理には充分注意し、構内であるということからたまにドアに錠をしないことはあつたが、キーはポケツトか机の引出しの中に入れていた。本件事故当時は、急いでいたため、車のキーを車のボツクスに入れて所用で出掛けていた。同被告は、これ迄一度も、誰からも加害車を無断で使用されたことはなく、仮に和田が無断で一、二度乗つたことがあるとしても、数分間車を前後させたに過ぎないから、それを目撃できなかつた。従つて、同被告は和田が加害車を無断で運転し、しかも公道に乗り出すとは、全く予想できず、かつ予想できなかつたことにつき、過失もないものである。

二  損害について

1  本件事故で、原告が右腓骨を骨折したというのは疑わしく、仮にそれが事実としても、昭和五〇年一月三〇日より三月一日まで入院しなければ治癒しないような骨折であつたとは考えられず、過剰診療であるから、相当因果関係の範囲内の損害には当らない。

2  原告はむちうち症のため、事故後二年近くも治療を続けているが、通常むちうち症は六ケ月から一年までに症状が固定する。原告においても、その医師は同じ治療方法を繰り返し、その診断も同一内容を繰り返しているものであるから、遅くとも事故後一年で、むちうち症としての症状が固定したと認められる。

三  過失相殺

原告は車道と歩道の、区別がある道路であつたのに、車道を西から東へ走つており、相当前方よりジグザグ運転してくる加害車を発見可能であつたにかかわらず、これの発見が遅れた過失がある。

四  相益相殺

原告の損害填補自認額のうち、労災補償分については、原告はその自認額の外、昭和五一年一〇月一六日から同年一二月三一日に至る四七日間分の給付を受けており、原告の休業補償給付および休業特別支給金の基礎となる平均日額は七、四五〇円であるから、金二八万〇、一二〇円(七、四五〇円×八〇%×四七日)が給付済である。

第五証拠関係〔略〕

理由

第一  事故の発生

請求原因一の1ないし4の事実は、当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第六号証の一ないし二二および原告本人の供述によれば、和田は本件事故直前、加害車を運転して北進し、事故現場の東方三叉路で左折して東から西へ時速約四〇キロメートルで進行してきたが、本件事故現場の約一五〇メートル東方から蛇行運転し、センターラインを超えて右側に斜走させ、折から道路を横断せんとして、歩道から車道へ出て、歩道側に駐車中の車両の間を抜け、駐車々両の車道側脇を西から東へ歩き出した原告に、加害車前部を衝突させて、路上に転倒させたものであることが認められる。

第二  被告らの責任

前掲甲第六号証の三に被告加持の供述によれば、本件加害車は訴外西数男が所有し、被告加持の兄が右訴外人より借り受けていたのを、同被告が又借りして本件事故より二カ月前頃(昭和四九年一〇月末か一一月初め頃)から週に三日程、加害車で被告会社に通勤してきていたものであることが認められる。

(被告会社について)

一  被告会社が本件加害車に対し、運行支配、運行利益を有するとは、本件全証拠を以てしても、未だ認められない。即ち、

証人和田伊千松の供述によれば、和田は本件事故以前に被告会社の住吉営業所のある構内で、加害車を二、三回無断で前後に移動させて運転練習をしたことがあつたと認められるけれども、被告会社を運行供用者というには、単にその構内における私的な運転練習行為が存するのみでは足らず、被告会社住吉営業所に於て、加害車をその業務に利用していたことが必要である。そして、本件全証拠中、その業務利用をいうのは原告本人の供述のみであり、原告本人の供述中には、「和田から住吉営業所では被告会社の伝票を届けたり、得意先に急用があるとき、加害車を使用していた。加持栄助の指示で加害車に乗つて、構内に駐車している車を整理したこともあると聞いた。」旨の供述が存するが、然しながら、証人和田は、本法廷で、「被告加持が加害車で、被告会社の上司の石津を二、三回送つて行つたのを見たことがあるが、それ以外には、加害車を被告会社の業務に使用していないと思う。会社の伝票等運んだことがあつたか、どうかははつきりしない。加害車については、本件事故前に、昼頃二、三回会社の空地で前後させる程度の運転をしたことがある。」旨述べて、原告に話したという前記内容とは異なつた供述をしているものであり、原告が和田から聞いたというその際の和田の話の方が真実であることを裏付ける証拠も本件全証拠中に存しない。そうすると、加害車の業務使用については、未だ立証不十分というべきである(ちなみに、証人高田弘之と被告加持の供述によれば、従来より被告会社住吉営業所と被告会社本店との連絡は、電話或いは郵便による書類の授受で行なわれており、また右営業所は本店からの指示により主に工業用ガスの充填と充填済ボンベの発送業務(ボンベの運搬は全てマルエス工運が請負つていた。)を遂行するだけで、得意先回り等の営業的な業務には携わつていなかつたから、加害車をその業務に使用する要もなかつたものと認められる。)。

また、石津を加害車で送る行為は、本件事故時を含め、次記する如く、偶然的便宜的なものであつて、それに会社の業務執行性を認め得ないので、被告会社は運行供用者責任を負わないものである。

二  前掲甲第一六号証の一六、同号証の一九、証人加持栄助、同石津二雄、同和田伊千松ならびに被告加持の各供述を総合すると、和田は本件加害車で、被告会社の社員で同人の上司である石津を地下鉄北加賀屋駅へ送つた後、再び住吉営業所へ帰社する途中、本件事故を起こしたものであるが、当日は御用納めの日で石津が帰える頃は、会社の仕事は終つており、同営業所の責任者である加持栄助や作業主任の被告加持は既に営業所には居らず、個人的な所用を足していたこと、以前、本件加害車で被告加持が石津を北加賀屋駅まで送つたことがあるが、それは自分も帰宅する際で、帰路が同一方向であつたから同乗させたにすぎないことが各認められる。それら事実によれば、同営業所の業務に、石津を車で送ることが含まれているとは認められず、本件事故当日も、和田は、小雨が降つていたから酒に酔つた勢いもあつて、いい恰好をしてやろうとして右石津を車で送る行為に出たものであることが認められるので、和田の本件運転行為を以て、被告会社の業務執行行為とみることはできない。

そうすると、被告会社は使用者責任についても、またそれを負うものではない。

(被告加持について)

前掲甲第一六号証の一六、同号証の一九、成立に争いない乙第二号証に証人和田、同高田(但し、後記認定に反する部分を除く。)、被告加持(同)の各供述を総合すると次の事実が認められる。

和田は被告加持に無断で、加害車を運転し、本件事故を起こしたものであるが加害車は、いつもと同じく本件事故当日も住吉営業所構内の消石灰処理場の左側に駐車されており、和田が事故当日、運転しようとした際は、ドアに鍵はかけられていず、キーもつけたままの状態であつた。和田は加害車に乗つて、直ぐに既に住吉営業所を出て北加賀屋駅へ向つていた石津に追いつき、石津を車に乗せて二、三分で右駅に着き、同所で石津を降し、営業所へ帰る途中、本件事故を起した。被告加持は当時、自転車で知人宅へ行つていたが、用が済み次第、営業所へ戻つて、加害車で帰宅する予定であつた。和田は本件事故以前にも、二、三度加害車を被告加持に無断で前後に移動させる程度であるが、運転したことがあり、加害車以外にも和田は住吉営業所で充填済ボンベの発送(出荷)業務に従事しているとき、同人の任意でその積込み場所であるプール付近に駐車して他車の通行を妨害するトラツクを、その運転手が一時トラツクから離れていた時等に移動させる等、構内に出入りする車を動かしたことがあつた。

以上、認定の事実によると、本件事故当時も未だ加害車に対する被告加持の運行支配は失われておらず、かつ、加害車を営業所から見える同営業所構内に駐車させていたとしても、同被告が常時、それを監視しているのでもなく、キーをつけたまま駐車させていた以上、和田をはじめとして、構内に出入りする者が、加害車を無断拝借して一般道路に出る可能性は排除されないから、被告加持は運行供用者責任を免れないものである。

右認定に反し、被告加持は、本件事故当時、加害車のキーは車の前部ボツクスに入れてあり、エンジンキーに挿し込んではなかつた旨述べるが、和田は以前二、三度加害車を運転操作したことがあつたから、本件事故当日、加害車で上司を送る気持を持つたとみるのが最も自然であり、そうすると和田は本件当日以外にも加害車にキーがついていたので、右運転練習をすることができたのであり、本件当日もいつも通り、キーがついていると思つたから、石津を車で送る考えが浮んだものと推認される(仮に、被告加持の供述通り、キーは車の前部ボツクスの中に入れてあつたとしても、即時、容易にキーを取り出し、運転操作できる状態にあつたと認められるから、右責任を免れるものでもない。)。

第三  損害

一  受傷、治療経過等

原告本人の供述により真正に成立したと認める甲第二、第三、第七号証、成立に争いのない乙第三号証および原告本人の供述によると、原告は本件事故によりその主張の傷害の他、外傷性頸部症候群、外傷性バレーリヨー氏症候群等の傷害をうけ、その主張通り、入、通院し(入院三一日、通院実日数少くとも四八一日)、昭和五一年一一月三〇日現在に至るも、ほぼ欠かさず、通院していることが認められる(原告の右腓骨々折の受傷はその受傷の部位、時期からみて、本件事故によるものと認める。)

二  損害額

1  入院雑費 金一万五、五〇〇円

原告が三一日間入院したことは、前記の通りであり、右入院期間中一日五〇〇円の割合による合計一万五、五〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

2  通院交通費 金九万六、二〇〇円

原告が四八一日間以上通院していることは前記の通りであり、原告が通院のため要する地下鉄北加賀屋駅から大国町までの乗車区間、一回往復二〇〇円程度を要することは経験則上認め得るから原告は合計九万六、二〇〇円の通院交通費を要したものである。

3  休業損害 金四九九万二、七五七円

原告本人の供述により真正に成立したと認める甲第四号証の二および原告本人の供述によれば、原告は事故当時株式会社西原工業所に溶接工として勤務し、一か月平均二四万四、七四三円の収入を得ていたが、本件事故により、少くとも昭和五〇年一月一日から昭和五一年一二月末日まで二四ケ月間休業を余儀なくされ、そのうちの一二カ月間は一〇〇%、残り一二カ月間は七〇%の稼働能力を喪失したものと認めるのを相当とするから、原告の右休業による損害は合計四九九万二、七五七円(二四万四、七四三円×一二カ月+二四万四、七三四円×一二カ月×七〇%)となる。

4  慰藉料 金一〇〇万円

前記認定した本件事故の態様、入・通院期間、傷害の部位、程度に原告本人の供述により認められる休業期間中の生活不安、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料は金一〇〇万円を以て相当とする。

なお、被告らは原告の入・通院中には過剰診療或いは症状固定後の通院があると主張するが、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める甲第八号証、前掲甲第二、第三、第七号証により認められる原告の傷害の部位、程度からすると原告の前記入院期間の程度では、それを相当因果関係外であるとは云えず、また外傷性頸部症候群は一般に長期間その症状が継続するものであつて、受傷後二年以内の通院のため、生じた損害(本件では交通費、慰藉料)はその症状の程度にもよるが、公平の見地からみて加害車に負担させることが相当である。

右1ないし4の合計 金六一〇万四、四五七円

第四  過失相殺

本件事故の態様は前記「事故の発生」で認定した通りであり、それによると車道上ではあるが加害車の反対車線側の歩道脇駐車車両付近にいた原告に対し、西進車である加害車が時速約四〇キロメートルでセンターラインを超えて反対車線の歩道側に斜走し、自己に向かつてくることを予見すべき義務を課することはできないから本件事故は和田の一方的過失により惹起されたというべく、原告には過失相殺の対象となるべき過失が認められない。

よつて、過失相殺はしない。

第五  損害の填補

原告が強制保険および和田より合計一〇八万四、六五〇円を受領していることは当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第九、第一一号証によれば、原告は本件事故の翌日から昭和五一年一〇月一五日迄の労災補償の休業補償給付金合計二六九万六、〇一三円、休業特別支給金合計九六万八、五〇〇円の総額三六六万四、五一三円の支給をうけていることが認められ、右各給付金は以後の昭和五一年一〇月一六日から、昭和五一年一二月三一日迄の少くとも七七日間は継続支給され、その算定の基礎となる額は一日当り金七、〇四七円(三六六万四、五一三円÷八〇%÷六五〇日)と推認しうるから、原告は前記労災からの支給額に加え、右七七日間の給付金合計の五四万二、六一九円(七、〇四七円×七七日)の支給をうけたといえるところ、被告らはそのうち金二八万〇、一二〇円の限度で弁済を主張するので、原告の損害に填補されるべき労災補償の給付額総計は金三九四万四、六三三円となる。

そうすると填補額合計は金五〇二万九、二八三円であるから、前記損害合計から右填補分を差引いた損害残は金一〇七万五、一七四円となる。

第六  弁護士費用 金一一万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告加持に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一一万円とするのが相当であると認められる。

第七  よつて、被告加持は原告に対し、金一一八万五、一七四円およびこれに対する本件不法行為の後である昭和五二年二月一九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度では正当であるからこれを認容するが、被告加持に対するその余の請求および被告会社に対する請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 原昌子)

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